Teslaを運転した

2023年3月末~4月頭にかけて、San FransiscoとLos Angelesを往復するロードトリップをした。旅行計画を立てているときにレンタカーの金額を調べていたところ、HertzがTeslaを貸し出していることを知った。車にすごく興味があるわけではないが、Teslaは話題性や完全なEVということもあってちょっと気になっていたので、せっかくだし借りてみることにした。

実際にTeslaを運転してみて、いくつか特に気付いた点があるのでまとめておく。今回借りた車種はTesla Model 3 Long Rangeだが、他の車種や年式とどれだけ共通しているのかは分からない。また、EVを運転すること自体が初めてなので、Tesla固有の話とEV全般の話、また最近の自動車一般の話が明確に区別されることなく混ざっていると思う。

良かった点

加速がスムーズ

モーターが動力になっているためか、加速する時は電車のようにスムーズに加速するのが気持ちよかった。ガソリン車だと加速度の変化(躍度)を感じるが、Teslaではあまり感じなかった。エンジン音がしないこともこの感覚に多少は効いていそう。

坂道での加減速は特に体験が良かった。オートクルーズで速度を一定に保っていた影響もあると思うが、上り坂で急に減速しないのは嬉しい。

減速はガソリン車とかなり勝手が違うので最初は戸惑った。アクセルを離したときにあまり慣性移動はせず、ガソリン車でブレーキを踏んだときのような急減速をする。アクセルの踏み込み加減で速度調整をするのが正しいんだと思う。これはしばらく運転していたら慣れた。

オートクルーズ・オートパイロット

1日に150~200マイルくらい走る旅程で、移動時間の大半はFreewayを走っていたが、オートクルーズで速度を一定に保ってくれるので足を緊張させ続けなくてよいのは便利だった。車間距離も設定できるので、前の車に追いつきそうになったり急ブレーキを掛けられたりしても自動で減速してくれるのは安心感がある。

まあこの機能はTeslaでなくても最近の車なら普通に付いているとは思う。ただTeslaは大きい画面で現在の設定が見られるので、普通の車よりもこの点に関してのUXは良かった。

オートパイロットは速度維持に加えて、自動で車線も維持してくれる機能。ただし当然ながらハンドルを離して運転することは許されず、ハンドルを握っていなさそうだと思われると力を入れるように警告が出る。面白い機能ではあるものの、Highwayの合流等で道幅が極端に変わると境界線を見失ってふらついたり、路上や道路脇に避けたいものがあっても認識してくれないなどの問題でむしろ危ないと思ったので、数回試した後は使わなかった。

悪かった点

ウインカー

ウインカーレバーは操作した後にその場に留まらず、手を離したらウインカーの状態だけを維持してニュートラルに戻ってしまう。要するにレバーだけどプッシュボタンのように機能する。これは最後まで慣れなかった。特にウインカーのキャンセル操作がとても分かりづらいし、キャンセルしようとして逆方向に操作したら逆方向のウインカーが点いてしまうということもよくあった。軽く押すことで3回だけ点滅する、いわゆるワンタッチウインカーはあるものの、自分は車線変更でも普通のウインカーを出すので使いづらかった。

また、レバーを操作してもウインカーが点かないという非常に危険な挙動も結構な頻度で発生した。原因はよく分からないが、Teslaのファームウェアがウインカーレバーの状態をポーリングする周期が低い可能性が指摘されている(Tesla Motors ClubのスレッドReddit)。そもそもスイッチの設計がおかしいように思う。

ワイパー

ワイパーの設定はタッチスクリーンでしかできないので、運転中は実質的に操作できない。一応左レバーの先に付いているボタンを押し込むと1回だけワイパーが動くが、軸の方向に押し込まないといけないので操作しづらい。

フロントガラスについた水の量を見て自動でワイパーを動かすモードがあり、おそらく普段はそれを使うことが想定されているのだと思うが、この判定はあまり精度が高くなく、水滴で結構視界が悪くなっていても動かないことがよくある。また、大型車の脇を通過する際の水跳ねに対しては全くと言っていいほど無力で、雨が降った後の道でトラックを追い越す時にはいつも自分でボタンを繰り返し押す必要があった。

その他気づいた点

Supercharger

カリフォルニアだからかもしれないが、要所要所にSuperchargerがあるのはありがたかった。大体は商業施設に併設されているが、施設自体のクオリティは当たり外れが大きい。充電は30分~1時間程度と長くはないが短くもない。そもそも充電が切れそうになったときに近くにSuperchargerがある保証もないので、ガソリン車に比べると長距離移動は事前の計画が重要になってくる。

今回借りたTesla Model 3 Long Rangeは公称で満充電時に358マイル走れることになっているが、体感としては250~300マイルくらいで充電が切れる感じだった(ちなみに今回の車のMilageは55,000マイルくらいだった)。まあこれはずっとFreewayを走っていたため、回生ブレーキの出番がほとんどなく、ほぼずっと加速していた影響もあるとは思う。

アメリカの距離感覚だと、この充電時間と航続距離は快適にロードトリップができるボーダーラインくらいだと思う。TeslaじゃないEVはどうなってるんだろう?Superchargerと汎用のEV Chargerが併設されている場所もあったが、同じくらいの速度で充電できるんだろうか?

Teslaに搭載されているカーナビを使うと、道中でSuperchargerに寄る必要があるときは勝手に組み込んでくれる。ただし当然ながら利便性は考えてくれないので、旅程を組むときの参考程度に使うのが良いと思う。あとSuperchargerの台数や想定待ち時間を表示してくれるのはちょっと便利だった。

アクセルの挙動

上にも書いたようにアクセルを離すと急減速するので、基本的にはアクセルを軽く踏み込んだ体制を維持することになる。これは街中や交通量の多い道路だとちょっと危ない気がした。2023年1月頃に話題になった中国の事故など、Teslaの急加速に関連する事故をいくつか目にするが、常にアクセルを踏ませるという操作性に起因している可能性は高いんじゃないかと思う。実際オートクルーズを使わないと足に力を入れ続ける必要があり、足に疲れを感じるのも速かった。

総合評価

理想的な環境での運転はしやすいし、個々の機能も面白いものの、安全面でのマイナスポイントがあまりにも大きいので買いたくはないなと思った。ウインカー、ワイパー、アクセルについて挙げた問題は総運転時間に比べると発生頻度は比較的低いとはいえ、実際にこれらの問題を踏んだ時はかなりの危険を感じた。あまりにも明確に普通の車と違うので、開発時にこれらの点が指摘されなかったとは考えづらく、意図的にこれらのデザインを選んだのだと思われるが、自動車のデザインとしてこのような使いづらい選択をするメーカーは個人的にはあまり信頼できない。

EV自体には可能性を感じた。今回はロードトリップだったが、日常生活で使う用途であれば自宅で充電できるのは便利そうだし、発進がスムーズなのも良い。遠出するには充電スタンドの位置や充電器のある宿を調べるなど下準備が必要なのは欠点だが、特に日本のような山が多い場所だとガソリン車より運転しやすそうだと思う。